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「いえ、僕は、君のことが、誰よりも」
「で、でも、どうして……。私、地味だし」
声量も早苗のときよりも小さい。消え入りそうな声しか、出ない。
「前にさ、学園祭の文芸部の出し物で、詩集を買ったんだ。それがすごく良くて、僕の言葉が追いつかないけれど、ずっと誰が書いたんだろうって」
とここで、急に井川先輩の言葉がナイフになって、突き刺さった。目の前で、黒歴史を抉られるのはかなり痛い。
「それで、君にたどり着いたんだ」
けれど、本番はここから。私が何かを言おうと、唇を動かして、言葉が紡ぎ出される、その瞬間。井川先輩の身体が、近づいて来て、大きくて逞しい腕が、私の身体を、力強く優しく、包んだ。
思い描いたように、私の顔が彼の胸板にうずまるということはなかったけれど。もう私は、どうにかなってしまいそうだった。
抱擁から解放されて、放心状態だった私に、早苗がにっこりと笑いかける。
「いいの、撮れたよ」
それを聞いて、安堵のため息をひとつ。
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