駄文、読まれる。

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「沙織、サイトにさ、脚本上げてみない?」 「えぇ、急に言われても、ネタないよ」 「今は書いたりしていないの?」 「全くってわけじゃないけれど」  むしろ、悪化している。 「さっきのノートとか」  げっ、こいつ、鋭い。と焦りの色を漏らしてしまったのがマズかった。  早苗は両の手を広げて、オフェンス。私も鏡合わせで両手を広げて、ディフェンス。傍から見たら、争ってるんだか平和なんだかの、猫のけんかだ。  右から来るか、と見せかけて猫だまし。気づいたときには、するりと通り抜けて。 「はーい、あたしの勝ちー」  そんなに見たいのか、物好きめ。 「まあ、引かないって約束してくれたら、見てもいいよ」 「うわー、引くわー」  早ぇよ。  他愛もないやり取りを引きずった、にやついた顔で、早苗は私の駄文を読み始めた。やがて、笑顔が消えて、やけに真剣な目つきになった。 「ねぇ、沙織」 「なに?」 「これ、すごくいい」 「はぁ、まさか」 「冗談で言ってない。本気。台詞とさ、そこに表情や仕草とかも書いてるよね。これ、凄く演技しやすいよ」  ストーリーだとか、そういうところを言われるか、と思っていた。早苗の演劇部出身ならではの観点は新鮮だった。 「これ、載せてみたら?」  早苗に言われるがまま、私は駄文の中の、あるシチュエーションを書き起こして、サイトに掲載した。  桜の木の下で、告白。そんなベタの中のベタを描いた短い脚本。  それが掲載されて、僅か三日後。実際に会って話がしたい、というコメントが届いた。それを見つけた瞬間、私たちは跳ねて、抱き合った。
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