5 平田自由

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 コロナ・ビールが僕の前に差し出される。  瓶の口に差し込まれたライムを搾り、琥珀色のビールに数滴落とした。そして手についたライムの柑橘系特有のサワースイートな香りを確かめたあと、咽喉奥に流し込むようにビールを飲んだ。爽やかな苦味のあるビールだが、美味しいとは感じない。正確に言えば、美味しいとはどういうことなのかわからなくなっている。酔い過ぎているのかもしれない。あるいは、今の僕の思考に味覚の入り込む隙はないのかもしれない。  仲田さんはまた指輪をいじっている。いじるのに飽きたかと思うと、彼女はふいに僕の方に向き直り、口を開いた。 「ねぇ、やっぱり私、ちゃんと言っていいかな?」 「え、どういうこと?」  刹那、心臓が収縮し、鼓動が速くなる。男の子よりもいつだって女の子の方が行動力と勇気がある。僕は、来るべき言葉を息を呑んで待つ。 「それはね・・・・」
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