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「明日学校いやだなぁ。」なんとなく私はつぶやく。
「明日は2限の専門からだよな。旅行産業論。講義名に釣られて履修したけど、堅苦しくて全然面白くないよなぁ。」平田君が言う。
「そうだよね。もっとハワイとかオーストラリアとかの観光についてやってくれるのかと思えば、為替変動が及ぼす旅行客の増減とか、内需の低下による経済の停滞とか、理論ばっかりで私、ギブ寸前。」
「ココナッツもコアラも一切出てこないからな。講義要綱ちゃんと読んでおくべきだった。」と言って平田君は大袈裟に頭をくしゃくしゃ掻いた。
「一回生のころはさ、ちゃんと先輩に講義の前評判とか聞いたり、予習とかもしっかりしてたけど、もう四回生にもなれば、いい加減になっちゃうよね。」
「ほんとそうだよな。新鮮さを失った慣れっていうのは、惰性と変わりないな。」
「だね。で、その惰性からすると平田君は明日の2限は出席するのかしら?」
「いや分からないな。起きれたら、行くよ。ハウ・アバウト・ユー?」
「私は出るよ。そろそろ前期試験だし、ちゃんと出ておかないと。夏が明けたら就職活動も始まるし。」
「だよなぁ。もうすぐ就活だもんな。本当に、早いよな。こないだ入学したと思ったら、もう大学を出る準備をしなきゃならないんだから。」
こういう世間話なら、お互いリズミカルに会話が弾む。なのにさっきみたいな恋愛のことになると、会話をとても窮屈に感じてしまう。
それは平田君だって同じだろう。やっぱり、私たちは友達のままでいたほうが楽しいし、いいんじゃないだろうか、とか思ってしまう。ほらまた堂々巡りだ。
「『4月は最も残酷な月だ』って、何かの本に書いてた気がするけど、凄く楽しくて、何かが始まる予感に満ちているのに、こんなにも早く過ぎちゃうって意味では残酷かもね。」私はふと思い出したことを口にする。
「T・S・エリオット。」
「え?」
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