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「それはイギリスの詩人、T・S・エリオットの『荒地』の一節だよ。四月は万物が春の光の中で煌いて、生命力が溢れ、まさに「生」を謳歌しているけれど、それは同時に、「死」への恐怖も想起させる。光が強ければ強いほど、その影が黒く濃くなるように、「生」への希求が強いほど、「死」への恐怖もまた一層強くなるんだ。コインの裏表だね。」
「喜びが大きいほど、それを失った悲しみも大きいってことね。」
「そうそう。すべては二律背反により成り立っているのかもしれないな。」
「なんか皮肉だよね。そういうのって。」
私の平田君への想いも、まさしくそのようなものだろう。彼を思う気持ちが強いから、どうしてもそれを失いたくなくて、怖くなって立ちすくんでいる。
「でも、逆に考えてみればいいと思うんだ。」
「え、どういうこと?」
「死への恐怖が強いほど、俺たちは生の喜びを認識できる。マズイもんを食べるからこそ、何がウマイかってことも分かる。悲しみが大きいほど、それを乗り越えて得られる喜びだって、きっと大きいはずだ。」
胸がずん、と揺れる。なんだってこの人は、こんなに私の心をくすぐるようなことを言うのだろう。なんだって、こんなにカスタードクリームみたいな気持ちにさせてくれるのだろう。
私はなんだか救われた気がして、そして何かが心の中で次第にときほぐされていくのを感じた。しかし、せっかくのところで、駅が見えてきた。
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