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7 平田自由
駅に着いた僕たちは、バス・ロータリーのベンチに座り、仲田さんの乗るバスが来るのを待った。
時刻表によれば、あと5分で最終バスが来ることになる。悶々とした葛藤が揺らぎつづけたこの逢瀬も、もう少しで終わりだ。何とか今日も逃げおおせた。僕はほっと安堵する。安堵と共に、後悔も去来する。なんだっていうんだ、一体。
僕らはもう何も言わず、何も語らなかった。とりあえずは終了だ。なんてったって、もう時間は無いのだし、あとはバスを待つのみだ。
ロータリーには僕らの他には誰もおらず、とても静かだった。遠くで車の行き交う音が聞こえる。空を見上げれば漆黒の闇にぽっかりと穴が空いたように月が輝いている。吹く風は湿り気を帯びていて、どことなく温かい。もうすぐ本格的な夏がやってくることを予感させる。今年もやはり、夏は来るのだ。
なにがきっかけになったのか分からないが、ふと僕の頭の中に、サイモン・アンド・ガーファンクルの『アメリカ』のメロディーが流れはじめた。繊細で美しい調べだ。ポール・サイモンがガールフレンドと二人でアメリカ旅行をした際に書いたとされる歌だ。
“「キャシー、迷子になった気がする」
彼女が眠っていると知っていたけど言ってみた。
「心がからっぽで、痛むんだ。なぜだか分からない。」”
歌詞の中で、ポール・サイモンはニュージャージーのターンパイクに止めた車に腰掛けて、月夜の明かりに照らされながら眠っているガールフレンドにそう囁きかける。
眠っている女の子にそんな風に語りかけるところが、なんともいえず良い。
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