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仲田さんは、酔いが回ってきたのだろうか、なんだか眠そうな顔をして、ぼんやりと足元を見下ろしている。
風が彼女の細い髪の毛をもてあそんでいる。彼女は、夜に溶け込む、どことなく妖艶な色香を漂わせている。出会ったころは十代だった彼女も、もう二十歳なのだ。
そんな風にして横目で仲田さんを見ていると、僕はなにか違和感を感じた。たいしたことじゃないが、何かがいつもと違っている。それは普段よりも酔いが回っているとか、雰囲気が違うとか、そういった類のものではなく・・・もっと直接的で、単純な差異だ。
と、すぐに僕はその違和感の正体に気付く。気付き、はっとする。いや、見間違いなのかもしれない。それとも、単に仕舞っただけなのかもしれない。けれど、直感が僕にささやく。「いや、違う、忘れてきたんだ」と。
それは象徴的だった。物という具体的な形を取りながら、同時に皮肉なほどのメタファーが込められた抽象的な・・・けれども決定的な、「わすれもの」だった。
分かったよ、いずれにせよ置き去りにはできないんだな。諦めて覚悟を決めるように、僕は心の中で、そう呟いた。
握った拳を、ゆっくり開いた。
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