2 仲田梨恵子

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2 仲田梨恵子

 いつものように豊富な雑学を饒舌に語り、冗談を言う平田君に微笑みながら、私は彼が先程オーダーしたのと同じカクテル、キューバ・リブレを頼んだ。頼んでから、グラスに4センチ程残っていたビールを飲み干した。ビールはほとんど味がなく、苦味だけが舌に纏わりついた。それが酔っているからか、緊張しているからか、判別がつかない。  ・・・・緊張?  なぜ緊張しているのだろう。平田君は知り合ってもう2年以上になる友人だし、今までに月に1回は食事に行ったりこうしてバーで飲むことだってあった。その時は緊張なんてしなかった。そう、“まるで緊張なんてしなかった”はずだ。  私と平田君が知り合ったのは、二年前(正確には二年三ヶ月前)、つまりまだ私たちが大学に入学したてだった、十八歳のころだった。  満開の桜のもと、高校という(そして受験勉強という)束縛から解放された新入生達は、髪を脱色したり、サークルの勧誘を受けたり、アルバイトを探したりして、そんな人たちの新鮮なエネルギーでキャンパスは活気立っていた。『四月は最も残酷な月だ』って、どこかの小説家だか詩人だかの有名な一節があったけれど、そんなのはまるっきり嘘に思えた。それは遠い国で続いている戦争のように、私たちから遥かなる距離にある言葉に響いた。  私はその日、女子高時代からの友人と二人で学食でランチを食べていた。そして、サークルはどこに入るかとか、パンキョー(一般教養科目)は二人で出来るだけ同じものを履修して交互に出席しようだとか、第二外国語はやっぱりチャイ語(中国語)が単位を取るには簡単らしいとか、そんな新入生なら誰もがする、他愛のない、けど当人達にとってはけっこうマジな戦略会議をしていた。
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