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4 仲田梨恵子
想いを告げてみればいいと平田君は言うけれど、それですべてを失うなんてことはないと平田君は言うけれど、それが本心じゃないのは分かる。分かりすぎるくらい分かるのだ。それが私を複雑な気持ちにさせる。
BGMはいつの間にかジャズからアメリカン・ポップスに変わっていた。さっきのジャズは全く知らなかったがこのポップスなら知ってる。キャッチーなメロディと伸びやかなヴォーカル。ゴウ・ウエストの『King of wishful thinking』だ。高校生のときによく聞いていた。映画『プリティ・ウーマン』のオープニングでかかる曲だ。
“君を手に入れるのさ。そうできるって分かってるんだ。僕の船は沈まないよ。
『君は僕のものになる』って心の中でつぶやく。だって僕は希望的観測の王様なんだ”
確かこんな感じの意味のサビだった。青臭く、ひどく向こう見ずだが、それゆえに何度も私はこの曲に励まされてきた。受験生で志望校合格には数学ⅡBの偏差値が圧倒的に足りないと担任に言われて落ち込んだ時とか、卒業式の答辞役をなりゆきでまかされてしまって緊張で不眠が続いた時とか、ちょっとしたことで不安になったり悩んだ時とかはいつもこの曲を聞いた。そして、その歌詞のポジティブさに勇気付けられてきた。そして「まぁ何とかなるでしょ」と開き直ることができたのだ。そして今、このタイミングでこの曲を聴くことになるとは、なんか運命めいてる?・・・って言ったら大袈裟かな。
そう。恋愛においてはきっと楽観的過ぎるくらいのほうがいいのだろう。けど、私はゴウ・ウエストのように希望的観測に自分の身を委ねることができない。つくづく臆病な人間だ。臆病さゆえに私は相手の顔色ばかり伺っているような気がする。
そう、私がどう想っているかではなく、平田君がどう想っているかということを重視しすぎて、身動きが取れなくなっている。
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