11人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
迷惑かけたうえに朝飯までもらっては、申し訳ない。
「いや、帰るよ。このお詫びは後日あらためて」
そう言いつつ立ち上がろうとしたが、足もとがふらついた。
あれ、うまく立てない。
「まだ酔いが残ってるみたいね。危ないから食べてから帰りなよ。お祖母ちゃんも賑やかなのが好きだからさ」
いや帰るよ、と口にする前にお祖母さんが戻ってくる。
「はい、値千金」
丸盆に載せて持ってきたものはペットボトルのスポーツドリンクだった。
いただいて御礼を言うと、すぐさま蓋を開けてラッパ飲みする。
染みわたる──ありがたい、心からそう思った。
「あらあら、コップがあるのに。よほど喉が渇いていたのね」
手で口を隠しながらころころと笑う姿、どことなく品が、いや、気品がある方だな。
言われて気がつく、丸盆にはコップも載っていた。
こちらの育ちを露呈したみたいで、恥ずかしい。
「酔い醒ましに良いもの用意するから、召し上がってきなさい」
「はい」
断れないというか、断ってはいけない気がしたので、素直に返事してしまった。
「じゃあ、シャワー浴びて着替えてくるね。三ちゃんも浴びる?」
「うっさい、さっさといけ」
つい乱暴に言ってしまったが、お祖母さんはころころと笑い、佐野さんも平気な顔で去っていく。
「すいません」
「いいのよ、そんなの。しかしまぁ……へぇ……」
控えめだが見定められている目で見られる。何を納得したのだろうか。
「支度が終わるまでもう少しかかるから、休んでなさい。出来たら呼びますからね」
それだけ言うとふたたび、おそらく台所に行ったのだろう。
残された私はやることがなく、ぼーっとしていると、はたと気づいた。昨夜の支払いはどうしたのだろう。
あらためて財布を確認すると、お金は減っていない。未払いなのか、それとも佐野さんが払ってくれたのか。
いかん、それを確認しないと帰れない。
とはいえ本人はシャワー中、さすがに聞きに行けない。やはり残るしかないか。
支度ができたと呼ばれたので、声のする方に向かう。
ダイニングテーブルに三人分の食事が用意してある。
御飯、味噌汁、アジの開き、漬け物、それに納豆と生卵。
いいなぁ、純和風で器も盛りつけも、まるで料亭のようで素敵だ。
「さぁおあがり、御口に合うといいけど」
「すいません、いただきます」
「「いただきます」」
シャワーを終えて着替えた佐野さんと向い合せで食事をはじめる。さてどのタイミングで訊ねようか。
最初のコメントを投稿しよう!