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一色の突然の告白に、会員達がどよめいた。
「チーフに対して僕は[好き]という感情を持ちました、だけどそんな筈はない、僕はゲイで恋愛対象は同性であるはずなんです。だから悩みました、僕の心から萌え出たこの気持ちは何なのかを」
一色の告白(?)に千秋は目を白黒させて立ち尽くす。周りの会員も会長も興味津々として黙って聞いている。
「[好き]、というから恋愛感情だと思い込んでいました。僕はチーフに対しての気持ちを[好き]でなく[好意]という言葉に変えてあらためてこの気持ちと向き合いました。そして解ったんです、この気持ちは、僕は生まれて初めて持った感情ですが、古来よりある感情であることを」
一色は片膝をつき、右手を左胸にあて、頭をたれる格好をして言葉を続けた。
「コンペでの、まるでジャンヌダルクのような振る舞い、横領の濡れ衣を晴らした、逆境に立ち向かいはねのける行動力精神力、すべてに感服しました。この一色テンマ、佐野千秋に忠誠を誓います」
ちゅ、ちゅ、ちゅーせー、って、なに言い出したのよ一色くん。
千秋は身体は立ったままの姿勢で心の中で仰け反った。しかし一色は本気らしい。
助けを求めようと周りを見るが、会員はどうなるかと固唾をのんで待っている。そんな最中、会長が立ち上がった。
助かる
と思ったが、一瞬で嫌な予感に変わった。会長の目が喜んでいる、この即興劇に参加する気満々の顔だ。
「では、この忠誠の儀式、この私が立会人となろう。汝一色テンマ、そなたはここにいる佐野千秋に忠誠することを誓うか」
「誓います」
会長は満足そうに頷くと千秋を見る。目が わかっているよね と伝えている。
「汝佐野千秋、そなたはここにいる一色テンマの忠誠の心を受けるや否や」
この場所、このメンバー、この雰囲気、とても断れる空気ではない。
千秋はあーもう、と思いながら開き直り一色に話しかける。
「一色テンマよ、そなたに尋ねる。私はこれより険しく困難な道を進むが、それでもついてくるか」
「はい」
「その道は遥かな頂を目指す道である」
「ついていきます」
「頂とはエクセリオン本社の社長である、それでもか」
会長は目を丸くし、会員達はどよめいた。しかし一色の態度は変わらず、当たり前のように答える。
「もちろんです」
「……私、佐野千秋は一色テンマの忠誠を受けよう」
おおぅ、という歓声とともに会員全員の拍手が店内に鳴り響いた。
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