祖母・母・娘

1/4
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ

祖母・母・娘

 ……  …………?  ………………ここ何処?  布団と畳の匂いに記憶がない、目覚めて目に飛び込んだ天井も覚えがない、ここ何処?  ガバッと起きて、周りを見渡す。  壁も襖も知らない、知らない部屋だ、知らない家だ。 「何処だ、ここ……」  格好は昨夜のままだ。スマホと財布を確認したあと、時間をみる。朝の八時ちょっと前、つまり泊まったということか。 「あ、起きなさったかね」  音もなく襖が開くと、正座した、小柄でどことなく気品のある和服姿のお婆さんと目が合った。 「あ、あの、こちらは……」 「ちょっと待ってくださいな。千秋ー、お客さまがお目覚めになったわよー」  千秋って誰?  しばらくしてピンク色のパジャマ姿でボサボサヘアーの女が頭を掻きながらやってきた。 「これなんです、お客様の前ではしたない」 「いいのよ三ちゃんだから。おはよう、三ちゃん」 「……佐野さんか。ここは君んちなの」 「そうだよ。──ひょっとして覚えてないの?」  ──覚えてない──  昨夜は……、謝罪を受け入れて和解したあと、保っちゃんと三人で呑んで歌って騒いで……、それから──たしか、奥さんが迎えに来たから保っちゃんが先に帰って、それから──二人で呑んで……。 「たしか耳元で“ブツッ”って音を聞いて……それから記憶がない……」 「やっぱり。途中から話しかけても“ゔー”“ゔー”としか言わなくなったもんね。おいてくわけにもいかないから、家まで担いできたのよ」  か、担いだぁ?!  私の体重は八十五キロ近くあるんだぞ。  何故知っているかというと、仕事場に業務用秤があって、時々計っているからだ。いや、そんなことはどうでもいい。 「担いだといっても肩をかしただけよ。ふらふらだったけど、ちゃんと歩いてここまで来たわよ。まあ意識は無かったみたいだけど」 ──全然覚えてない、そんな状態だったのか。  言われて少し思い出した。  最初は猫をかぶって軽めのカクテルを呑んでたのが、途中から白ワインをボトルで呑みはじめたんだ、この女。  それで──酔い潰されたのか、私は……。 「迷惑かけてすまない」 布団から出て正座して頭を下げる、土下座だ。  醜態だ、醜態を晒してしまった、情けない。 「まあまあ、この子は酒豪(ざる)だからしょうがないですわよ。それよりもお身体はどうです、頭痛とかしてませんか」 「いえ、まったく。むしろ調子がいいくらいです」  さすがに喉が渇いてはいるが、体調に関しては調子がいいくらいだ。  そうと分かったら急に腹が減ってきた。とたん、腹の虫が鳴る。 「まぁまぁ、朝餉の用意が出来てますから食べていきなさいな」 お祖母さんが微笑みながら立ち上がり、奥へと向かっていく。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!