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祖母・母・娘
……
…………?
………………ここ何処?
布団と畳の匂いに記憶がない、目覚めて目に飛び込んだ天井も覚えがない、ここ何処?
ガバッと起きて、周りを見渡す。
壁も襖も知らない、知らない部屋だ、知らない家だ。
「何処だ、ここ……」
格好は昨夜のままだ。スマホと財布を確認したあと、時間をみる。朝の八時ちょっと前、つまり泊まったということか。
「あ、起きなさったかね」
音もなく襖が開くと、正座した、小柄でどことなく気品のある和服姿のお婆さんと目が合った。
「あ、あの、こちらは……」
「ちょっと待ってくださいな。千秋ー、お客さまがお目覚めになったわよー」
千秋って誰?
しばらくしてピンク色のパジャマ姿でボサボサヘアーの女が頭を掻きながらやってきた。
「これなんです、お客様の前ではしたない」
「いいのよ三ちゃんだから。おはよう、三ちゃん」
「……佐野さんか。ここは君んちなの」
「そうだよ。──ひょっとして覚えてないの?」
──覚えてない──
昨夜は……、謝罪を受け入れて和解したあと、保っちゃんと三人で呑んで歌って騒いで……、それから──たしか、奥さんが迎えに来たから保っちゃんが先に帰って、それから──二人で呑んで……。
「たしか耳元で“ブツッ”って音を聞いて……それから記憶がない……」
「やっぱり。途中から話しかけても“ゔー”“ゔー”としか言わなくなったもんね。おいてくわけにもいかないから、家まで担いできたのよ」
か、担いだぁ?!
私の体重は八十五キロ近くあるんだぞ。
何故知っているかというと、仕事場に業務用秤があって、時々計っているからだ。いや、そんなことはどうでもいい。
「担いだといっても肩をかしただけよ。ふらふらだったけど、ちゃんと歩いてここまで来たわよ。まあ意識は無かったみたいだけど」
──全然覚えてない、そんな状態だったのか。
言われて少し思い出した。
最初は猫をかぶって軽めのカクテルを呑んでたのが、途中から白ワインをボトルで呑みはじめたんだ、この女。
それで──酔い潰されたのか、私は……。
「迷惑かけてすまない」
布団から出て正座して頭を下げる、土下座だ。
醜態だ、醜態を晒してしまった、情けない。
「まあまあ、この子は酒豪だからしょうがないですわよ。それよりもお身体はどうです、頭痛とかしてませんか」
「いえ、まったく。むしろ調子がいいくらいです」
さすがに喉が渇いてはいるが、体調に関しては調子がいいくらいだ。
そうと分かったら急に腹が減ってきた。とたん、腹の虫が鳴る。
「まぁまぁ、朝餉の用意が出来てますから食べていきなさいな」
お祖母さんが微笑みながら立ち上がり、奥へと向かっていく。
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