祖母・母・娘

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 箸がすすまなかった。  やはり胃が荒れているのか、いざとなると食欲が無いのと、何というか、ふたりともとても品のある食べ方で、つい見惚れてしまうのだ。 「どしたの? やっぱ食欲無い」  佐野さんが心配そうに訊く。 「あ、いや、──すまない、とても美味しそうで食べたいんだが、申し訳ない」 「いいのよ気にしないで。そうね、味噌汁だけでも飲んでみたら」 お祖母さんに悪いので、無理して味噌汁だけでもと口にする。 「美味い」  具は海苔だけの赤だしの味噌汁だが、むせないように冷めたまんまだ。おかげであっという間に飲めた。 「おかわりあげましょうか」  すいませんとお椀を渡し、動きを目で追うとガスレンジの上に二つの鍋があるのが見えた。片方は小鍋で、お祖母さんはそこから味噌汁をすくってくれた。  それに気がついて二人のお椀を確認すると、湯気が立っている。つまり温かい。つまり私の分用に冷めた味噌汁を用意してくれたのだ。  なんという気遣い、不覚にもキュンとしてしまった。 「すごいお祖母さんだな」 「でしょ。元カゾクなんだよ」 「え」  元家族? 今はそうじゃない? フクザツな家庭なのかな。  私の表情で勘違いしてるなと思ったらしく、佐野さんから説明が追加された。 「カゾクってFamilyの方じゃなくてNobleの方だからね。日本にも貴族制度があったでしょ」 「ああ華族の方か。って、華族!! お嬢様なの」 「あらまあ、こんなお婆ちゃんつかまえてお嬢様だなんて御上手ね。昔の話よ、気にしないでね」  どおりで気品があると思った。  二杯目の味噌汁を飲み干すと、ごちそうさまでしたと挨拶をする。三杯汁はさすがにできない。 「じゃ、手つけてないのもらうね。お祖母ちゃんお代わり」 「これ、はしたない」 「いーの、三ちゃんだから」 「あのね、佐野さん」 「あーもう、佐野さんじゃなくて千秋って呼んで。昨夜はそう言ってくれたよ」 ──覚えがない。そんな馴れ馴れしくなったのかな。 「それと約束どおり、お祖母ちゃんも紹介したからね。お祖母ちゃん、三ちゃんてね小説家なの。それも歴史小説。だからお祖母ちゃんを紹介してほしいって言ったのよ」  これも覚えがないが、私なら言いそうである。なにしろ今現在、もっと話を訊きたいと思っているからだ。  ご飯をよそいに席を離れたチャンスをいかして千秋に小声で訊く。 「昨夜の支払いってどうした」 「私が払ったわよ」 「いくらだ。精算する」 「いーよー、私が酔い潰しちゃったんだから」 「よけい精算したいわ」 「いいってば。そんじゃ今度奢ってね。あそこ気に入ったわ、私も行きつけにするから」
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