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結局、私の分のおかずも平らげた千秋とともに家を出たのは、午前十時くらいだった。
「どうもお邪魔しました。後日御礼をさせていただきます」
「そんなの気にしなくていいから。でも遊びに来るのは大歓迎よ、またね、三ちゃん」
お祖母さんにまで三ちゃん呼ばわりされてしまったが、まあいいか。
家を出てすぐ目に飛び込んできたのは、見慣れた巨大施設だった。
「なんだ、競輪場の裏手なのか」
「そうよ、だから三ちゃんちから近いでしょ」
「ああ、って、なんでウチの場所知ってるんだ」
「意識不明の三ちゃんを連れてくつもりで、失礼して免許証を見させてもらいました。小川三水ってペンネームなのね、本名は比良村……」
「言わなくていい!!」
思わず怒鳴ってしまった。
「どうしたのよ、急に」
「本名キライなんだよ、子供の頃からそれでからかわれたからさ。三ちゃん呼ばわりでいいから本名は言わないでくれ」
「──うん、わかった」
少し気不味くなったので話題を変える。
「千秋はもともと壱ノ宮なのかい」
「うん、生まれも育ちも壱ノ宮。ただ何回か引っ越ししてるけどね」
「なんでまた」
「あー、ウチね、借金があるのよ。お父さんが実業家でね、事業を失敗して返済中に事故で亡くなって、それをお母さんが代わりに払っている最中なのよ」
「今も?」
「まぁね。なんせ二億近くあったからねぇ」
「に、二億ぅ」
「そんなんだから、家財道具一切差し押さえられてね。一時期、引っ越しばかりしてたわ。三ちゃんの住んでる和泉和希荘にもいたことあるわよ、家賃、今でも安いの」
「ああ、おかげで助かってる」
県道18号線に出て南下し国道155号線まで来る。東に折れてしばらく行くと見えてきた。
「変わりないわね。ていうか、ちょっとくたびれたかな」
どこまでついてくる気だろう。
「ここらでいいよ」
「あら、部屋にあげてくれないの」
「千秋のところみたいに片付いてないからな。それに戻ったらすぐ寝たい」
「気にしないのにぃ」
「わ・た・し・が、気にするの。それじゃぁな」
足早にその場を離れて、しばらくしてから振り向く。
「ああそうだ、お祖母さんにあらためて御礼を言っといてくれ。それとお邪魔じゃない時間を知ってたら教えてくれ」
「わかった。あとから連絡するね」
「連絡って、どうするんだ」
「アドレス交換したのも覚えてないの」
言われて、スマホを取り出して確認すると千秋の名前で登録されていた。
「じゃー、またねー」
そう言うと、千秋は戻っていった。
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