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そしてつきあいが始まった
────これが千秋と私の出会いである。
その後、お店で待ち合わせをし奢り返して精算してそれっきりと思ったが、どういうわけか度々厄介事を持ち込んでくる。
それによりお店で会うようになり、いつの間にやら飲み友となり、今夜もこうして呑んでいる。
「なに考えているの」
厄介事の元凶がほろ酔いで訊いてくる。
「出会った頃を思い出してたのさ。それで思い出したんだけど、あの時の協力してってどういう意味だったんだ」
「あの時って」
「電車の中で『ちょっと協力して』って言ったやつ」
「……ああ、あれか。よく覚えていたわね」
「記憶力には自信があってな。で、」
「うーーーんとね、もう片付いたからいいか。あの時、ちょっと狙われていたのよね」
「千秋がか」
「ううん、持ってたデータ。書類じゃなくてUSBメモリなんだけど。それを狙われてたの」
「で」
「予定では三ちゃんを泥棒扱いして、駅に着いたら引っ張り出して警察に突き出すふりしてまくつもりだったのよ」
「言ってくれれば、そうしたのに」
「だって駅に着くまで大人しくしてると思ったら、逃げ出すんだもん。焦ったわよ」
────ああ、そうだったのか。
千秋は私が痴漢に間違われやすいなんて知らないもんな、その場から逃げ出すのは予想外だったのか。
「ということは、追ってきた男がソイツなのか」
「そう」
「メモリはどうした」
「気づいてなかったようだけど、あの日、私もともしびに入ってたのよ。そしてメモリは女子トイレのタンクに隠して、後日取りに戻ったわ」
「知り合いが居たら挨拶するつもりだったから見回したけど、いなかったぞ」
「そう? 一番奥のモニターの下の席に居たわよ」
──覚えがない。忘れてしまったか、見落としたか……。
「追手もいたけど、三ちゃんを追いかけて出てったわ。そのスキに私は支払いを済ませて駅に戻るふりして大回りして帰ったの」
「帰りに回収すれば来なくてすんだろうに」
「持っていて、万一襲われて取られるわけにいかなかったからね。逆にメモリが見つけられないか心配だったわ」
「で、無事回収して事なきを得たのか。良かったな」
その後の泥酔して千秋の家に泊まった事の方がショックだったのですっかり忘れていたが、喉の奥の小骨が取れた感じで謎が解けてスッキリした。
「ちなみに何のメモリだったの」
「ナイショ。仕事関係のことだし、まだ話せない内容だから」
「わかった。それなら詮索はやめよう」
そちらの方はもう興味無い。
今の私は千秋のお祖母さん、葛小路華子さんの方が興味深いのだ。
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