そしてつきあいが始まった

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 新柳通りを北上して155線を越えて最初の信号を右に折れて東に向かう。  信号と大江川用水を越えると県道18号の交差点に出る。ここでお別れだ。 「いつも大回りして帰るの面倒くさくない?」 「華子さんに頼まれてるんだよ。孫をよろしくってな」  それに夜道をひとりで帰らせるわけにはいかないからな。  まったく、女嫌いなのにフェミニストもどきだなんて、我ながら馬鹿だと思うよ。  軽くハグされてから危なくない足取りで帰っていく千秋を見送ったあと、私も帰途に就く。  ──まったく本当にまいったな。  歩きながらため息をつく。  千秋に会う前の私は、女性への偏見が固まろうとしていた。  そりゃあそうだろう、下着ドロと疑われるわ、痴漢と間違えられるわ、カネを何百万単位で騙し取られるわで散々な目ばかりあってたんだ。  そのうえそんな話を女にすれば、大抵この二つが返ってくる。  [騙されるアンタが悪い]  [女は騙すものだ] と。  それが本当ならば最初から関わらなければいい、もう騙されるのはゴメンだ、これ以上心を傷つけられたくない。そう思ってた。 しかしだ。 あと一歩、もう一度ひどい目にあったら、この世にいるすべての女に絶望して、偏見の目で見続ける人生だったのに、それを引き止めた、絶望でなく希望を持たせたのは千秋達家族なのだ。  華子さんのように素晴らしい人格の人がいるのだ。  咲子さんのように一途な人がいるのだ。  そして、詫びるためにあそこまでやり、酔い潰れた私を自宅まで連れて行き介抱し、翌朝もさり気なく送ってくれた千秋。 今さらこんな素敵な人達に会わせるなよ、もうアラフィフだぞ、なんで今頃世の中には素敵な女性がいるなんて知らせるんだよ。 「やっぱり私は女運が悪い」 そうとしか思えなかった。  千秋達に私の過去は話したことはない。  もし華子さんに話したら、ひょっとしたら私の心を救う、[あの言葉]を言ってくれるかもしれない。  [あの言葉]を言ってくれる女性に会えたら私の心は救われる、この苦しい思いを無くしてくれるだろう。  だが言えない。  言ってしまい嘲笑われたら、絶望への後押しされてしまう、それが怖いのだ。  だから中途半端な希望を期待してしまう厄介な日々を送っているのだ。 「もう、誰にも言えないよなぁ」  誰であれ、油断して甘えてつい言ってしまうかもしれない。そしてまた絶望するかもしれない。そうならないように女には距離をおかなくては。 「まったく厄介なヤツに出会ってしまったよ」 夜空に向かい独り言をつぶやいてから、家路にへとついた。 ーー 了 ーー
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