知多半島沖の

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 エンジン音が止まる、どうやらポイントに着いたようだ。  すでに準備が出来ているマスター一家はさっそく釣糸を垂らす。私はというか、我々は保っちゃんに道具を借りることになっていたので、彼が準備しないとなにも出来ない。 「三ちゃん、はやく用意してよ」  ノブが私に言うが、それは保っちゃんに言えよ。  船首に向かって声をかけると、慌ててやってきて、それはそれは手際よく竿を用意してくれた。 「重坊はいいのかい」 「ご心配無く、ちゃんと持ってきてますから」 そう言って取り出したのは、素人からみても分かるくらいゴツい竿だった。 「なんだいそりゃあ、超大物用の竿じゃないか。今日はアジが目的だぞ、素人でも釣れる小物なんだから、それじゃ釣れないぞ」 「大は小を兼ねるから」 「兼ねるか。この場合は適材適所っていうんだよ。ったくしょうがねぇなぁ、ボンボンは。ほら、オレのを貸してやるよ」  結局、客組は全員保っちゃんの道具を借りることとなった。  3メートルくらいのリール竿にサビキ仕掛けを手際よく付け、コマセを撒くと私達に釣り方をレクチャーする。 「姐さん、こっちで一緒に釣りましょうよ」 ノブが千秋の腕をとり左舷側に行く。マスター達も左舷だから、バランス的に私と保っちゃんと重ちゃんは右舷側に陣取ることになる。狭いのを嫌ったのか、息子さんはこちら側にやってきて私の隣に座った。 「さぁて、釣るぞぉー」 元気いっぱいに竿を振り、遙か先で錘が海に落ちる音がした。 「あちゃ」  息子さんが、あれあれという感じで顔をしかめる。どうしたのかと訊くと、コマセは近くでやったんだから、あんなに投げなくていいと教えてくれた。  アドバイスに従い、私は近場に糸を垂らす。どうせうまく投げられないしな。  重ちゃんはどうかなと見ると、こちらと同じく近場に糸を垂らしていた。勘がいいのか学習能力が高いのか分からないが、わりと要領のいい人だから、このやり方がいいと思ったんだろう。 「来た」  初ヒットはマスターだった、主催者の面目躍如だな。  次は息子さん、その次は千秋、そしてママさんと次々に釣り上げていく。ちょっと間があいたが、重ちゃんとノブも釣れた。今だ釣果が無いのは私と保っちゃんだけである。  焦ってきた保っちゃんは、ムキになってどんどん投げるが、釣果無し。どんどん機嫌が悪くなっていく。  早く釣れてくれないかな。万が一私が釣ってしまったら、保っちゃんひとりだけ釣れてないことになる。私は釣れなくても構わないんだ、頼むから先に釣ってくれよ。  しかしその願いも虚しく、竿に手応えがあり、竿先がしなってひくひくと動いている。どうみてもかかったよな。しょうがなくリールを巻いていくと、アジが3匹もかかっていた。 「うわ、3匹も。やった、やった」 思わず喜びの声を揚げてしまった、あわてて口をつぐんだがもう遅い、短気な保っちゃんの不機嫌メーターが限界に達しようとしていた。
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