0人が本棚に入れています
本棚に追加
4
白木屋の店内は、ハナキンだけあって会社帰りのサラリーマン達を中心に賑わっていた。そしてひっきりなしに、大学生のアルバイトの「いらっしゃいませぇ!」という威勢のよい声が飛び交っている。
二人はまず生ビールの中ジョッキをオーダーし、その肴として軟骨の唐揚げや蛸山葵やチャンジャなどを頼んだ。すぐに店員がビールを持ってきたので、杯を合わせて乾杯する。
「くはぁ!やっぱ仕事後のビールは最高っすね!」田口良平は威勢よくそう言い放った。
「お前まだピカピカの大学一回生なのに、オッサン臭いこと言うなよ」雅春は、苦笑いした。
「マサさんこそ、ピカピカの一年生なんて、言い回しがオッサン臭いですよ」良平も負けじと言い返してきたが、雅春は少なからずショックを受けた。
良平とは7歳離れているが、普段は仕事上の扱いがほとんど同じこともあるかもしれないが、あまり年の差を意識することはない。けれど、ちょっとした言葉遣いや、聞いている音楽の違いなどで、世代の差というのを感じるときがあるのだ。
「にしても、今日僕が来たとき、雰囲気悪かったっすねぇ」良平は話題を切り替える。
「まぁ、な。いつものことだよ」途端に雅春は歯切れが悪くなった。
「僕は基本的にマサさんの意見すっごくよく分かりますけど、タエさんの言い分も一理あると思いますよ。」良平は、雅春と妙子の諍いの原因をある程度把握している。
雅春は以前自分の考えを良平に吹き込んだが、良平は良平で雅春サイドに付くというのでもなく、妙子とも良好な関係を維持している。むしろ、良平は妙子のお気に入りで、自分の経営スタンスについては、雅春よりも良平に語って聞かせている。そういう意味では良平は事情通とも言え、また相手との距離を適度にとりつつ円滑なコミュニケーションをしている、社交性とバランス感覚を兼ね備えたなかなかの逸材ということもできる。
「俺はやはり、妙子さんは間違っていると思う」それでも、雅春は自分の意見は自分の意見として良平にも伝える。
最初のコメントを投稿しよう!