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「ただいま」  田口良平は、そういって玄関のドアを開けたが、先には真っ暗な闇が広がっており、電灯をつけて明るくなってもそこにはがらんどうの空間が残されているだけだった。1DKのアパートに一人暮らしを始めてから半年が経とうとしていたが、未だにこの空虚さには慣れない。  良平はとりあえず大学のテキストなどが詰まったカバンを放り投げると、CDデッキのFMラジオを付けてベッドの上に仰向けに寝転がった。  スピーカーからは、今週のヒットチャート上位の何とかというバンドの何とかという題のPOPソングが流れている。毒にも薬にもならないが、それがいいんだろう。音楽にそんなに迫られちゃ、迷惑だと思う人たちが多いから、POPソングはどんどん無難になっていって、歌詞は幼稚に、抽象性が増していく。  良平は聞くともなくそれを聞き、天井を見つめる。あ、また天井を見つめている、と思う。気が付くといつも天井を見つめていて、天井を見つめる時と天井を見つめる時の間に、人生を送っているみたいだなと思った。  佐和に電話してみようかな、と思案した。そう思っていると、タイミングよく良平のガールフレンドである鶴見佐和からの着信を知らせるメロディが鳴り響いた。ラジオを消して、電話に出る。 「おう、佐和。今から電話しようと思ってたとこなんだ」 「そうなんだ、あたしナイスタイミングじゃん」電話の向こうの佐和の声を聞いて、良平は少し孤独が薄らぎ、安堵する。  彼は電話をしながらマイルドセブンの煙草にジッポのライターで火をつける。煙草は、高校2年生の夏休みに、所属していたサッカー部の仲間に誘われて吸い始めた。煙草を吸うことに興味はなかったし、むしろ運動能力を低下させるので気が進まなかったが、仲間との関係を維持するために流されて吸った。
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