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 もちろんそんなのは方便だとすぐに分かった。でも、分かっていても、夕闇に霞む佐和が、まっすぐ良平を見て微笑んだ瞬間に、良平はやられてしまった。黄昏時は、逢魔が時とも言うな・・・なんだか、よく分からないけど、何かにとらわれてしまったような・・・。  その日に良平と佐和は寝た。近くのホテルに、どちらともなく入って行って、激しく交わった。良平にとって、初対面の女の子と会ったその日にセックスをするのは、初めてだった。別れ際に携帯電話の番号とアドレスを交換して、それからもちょくちょく会うようになった。出会いから半年が経つが、「好きだ」とか「付き合おう」という確認のないまま、今日に至っている。 「今日はいい写真が撮れなかったんだ。なんだか最近、自信なくしてきたよ」佐和は甘えるように言った。 「佐和の写真は、素敵だよ」良平は慰めるつもりで言う。 「そんなこと言ってくれるの、良平だけだよ」 「それでいいじゃん」 「いいわけないよ、私は趣味でやってるんじゃないんだから。世間に認められないと、意味がないの」佐和は少しムッとしたように言った。  良平は、自分が佐和の写真を素敵だと褒めたことに対して、「意味がない」と言われたことに、違和感を感じた。もちろん佐和の言い分は分かる。分かるけれど・・・。 「ごめん、なんか今日は愚痴っぽくなりそうだから、切るね」 「自分からかけといて?」と言って、良平は「しまった」と思った。嫌味を言うつもりはなかったのに、先ほどの「意味がない」という発言に少し傷つけられた良平は、つい嫌味めいた言い方になってしまった。 「なによそれ、もういい」佐和は言い終わるか言い終わらないうちに電話を切った。
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