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 時代が悪いのだ、と妙子は思う。もうこんな個人書店は、時代遅れなのだ。甚八の頃は、時代が良かったのだ・・・。妙子は、閉店後のダウンライトに薄く照らされた静まりかえった店内をぼんやりと眺めた。物言わぬ本たちが、整然と並んでいる。  かつて、ここは本島甚八の城だった。ブックストア・モトジマは、甚八がそのすべてをかけて具現化した彼の夢だった。今は夢の抜け殻と化した城に、自分が一人ぼっちで取り残されているみたいだ。  本島甚八と二人で暮らしていた住居からは、彼の死後、すぐに引っ越した。一人では広さを持て余すというのがあったし、何より、新しい環境に身を置きたかった。いつまでもそこに留まっているのは、つらかったのだ。  でも、ブックストア・モトジマを閉店することはしなかった。彼の幻影が染みついたこの店で、私は、仕事をしていくことを選んだのだ。  それは意地でもあり、妙子なりの復讐でもあった。  復讐?・・・そう、復讐なのだ、きっと。  二人の間には子供は生まれなかった。原因は妙子にあった。妙子は、生まれつき子供を生みづらい身体であった。不妊治療も受けたが、なかなか成果を挙げず、結婚から5年したときに二人は話し合って子供をつくることを諦めた。子供をつくることは諦めたのだが、妙子はそれで解放されたわけではなかった。彼女は、生理が重かった。その日が来ると、妙子はひどい生理痛に苦しめられた。子供が産めない身体なのに、どうして私はこんな苦痛を強いられないといけないのだ。妙子は自分の運命を呪った。  そして、そんなときでさえ、甚八は支えになってくれなかった。妙子が生理痛で機嫌が悪くなると、「女はすぐヒステリーを起こしよる」と言い捨てた。妙子は悔しくて涙が出てきた。あなたに私の痛みは分からない。いくら高尚な本をたくさん読んだって、あなたにはこれっぽっちも私の痛みなんか、分かりゃしないのよ。そして、二人の仲は時の経過と共に冷めていってしまった。
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