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坊鬼も岐士の気持ちを連動させて男泣きに泣いた。
さめざめとした雰囲気が一頻(ひとしき)り続いた後、口を開いたのは研次だった。
彼はここに来て初めて転生に前向きな姿勢を見せた。
彼が望んだのは
“今までの記憶を失ってまた始まる次の人生で自分が間違いを犯しても常導神の声に気づける繊細な神経を持ち続けたい”
それだけだった。
次の人生に於(お)いてそれは過酷な環境に輪をかけることにもなりかねないが、それでも人生を全うすれば彼の徳は目を見張るものとなるだろう。
岐士はそれを確認したが研次の目に迷いはなかった。
そして今、研次はもう研次という名前ではない。
彼は根底に優しい気持ちを持った人間として過酷な環境で色々なことに躓(つまず)き、間違え、憤り、耐え、反省を繰り返しながらも懸命に日々を生きている。
―了―
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