第11章 君が初恋の人

1/44
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ

第11章 君が初恋の人

「お疲れ様でした、武市くん。…いろいろと今日はご心配をおかけして」 深く寝入った火宮の様子を確認して、その目を覚ますことがないよう慎重に手を解いて布団の上に乗せてからそっと寝室を出る。そのままリビングに戻ると、片隅で何事か声を潜めて携帯でやり取りしていたと思しき野沢さんが顔を上げ、素早く通話を切って俺に声をかけた。 「いえ、こちらこそ。結局図々しく泊まり込んでお世話になったりして。すみませんでした、ほんとに」 神妙に頭を下げる。野沢は承知の上で何も文句言わないよ、と火宮は平気で言うけど。仮にもお世話係で彼女のお祖父さん直々に任命されたお目付役、彼の目から見て年頃の女の子の部屋に二人きりで泊まる男友達の存在なんて。黙認するにも限度ってものがあるかも。野放図でけじめのないことこの上ない。 いくら互いに完全なる友達関係で疚しいところがひとつもなくたって、常識で考えたら眉をひそめたくなるのが普通だと思う。 なのに火宮ときたら。無邪気というか無防備というか、野沢さんの前でも全然裏表なく、まるで部屋の中に俺たち二人しかいないみたいな勢いで甘えてくるし。どう思われるかこっちは冷や冷やだ。     
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!