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誰だって、一度は過去に戻りたいって思うだろう。戻りたい時期は人それぞれだろうけど、私はいつだって良かった。あの男から逃げられるならいつだって。
目覚めたときには、うっすらと見覚えがある部屋にいた。開けるタイミングをいつも逃していたカーテン。小さなテーブルに転がるビール缶。吸殻が山になってる灰皿。この半年で急に黄ばんだ白い壁紙。1DKの小さな部屋にシングルベッド。私はそのベッドの端に小さく縮こまって寝ていたらしい。
どさりと振り下ろされてきた腕に息を飲んだ。つい身構える条件反射。
細いくせに私を殴る時には酷く太く見えたあの腕。
だらしなく開いた口の端にはよだれの跡がついている。この顔は間違いなくあの男。
でも、こんなにハリのある肌だった?
小さないびきをかいているそいつの頬をおそるおそる触ろうとして、自分の指先の変化に気づいた。荒れていない指先。きれいにマニキュアされた爪。タオルケットの下の乳房は硬く、しっかりと形を保っている。
「……今、何時?」
隣にいるそいつは、眠そうに目をこすりながら私を抱き寄せた。瞬時に強張る私を不思議そうに見つめる。どうしたの? と笑う顔。
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