return

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 ………あの子は? あの子はどこにいったの?  私が過去の私に戻って半年が過ぎた。記憶どおりに結婚の話が進んでいく。特別にエリートコースを進んでるわけではないけれども、そこそこに名の通った会社に勤める男を、父も母も歓迎した。過去に戻れるものならば、同じ間違いは犯さない。そう思ってた。戻れるはずが無いと思っていたから。何もかも私が悪いのだと自分を責め続ける悪夢のような催眠術がとけるまでに4年かかった。「間違い」が私の間違いではなく、あの男の間違いなのだと私自身が認めるまでに4 年の時間と、折れて曲がったままつながってしまった小指と、無数の痣が必要だった。  映画をみたり、私の好きだった店で食事をしたり、夜景を見にドライブしたり。  あの男は私の記憶どおりに行動している。 「ごめん、ちょっと調子悪くて」  舌をからめながら伸ばしてきた手をそっと押さえた。何度かに一度の夜は拒絶をしてみる。我慢できないわけじゃない。まだ訪れてない未来には、もっと乱暴に扱われた。私が痛覚などもたないかのような扱い。けれど、痛みにあげる悲鳴にあの男は下世話に笑った。もうすぐ、あの未来が訪れる。その記憶が、今は優しく触れる手に寒気を起こさせる。     
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