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圭介の表情が変わった。
遠くからでもはっきりとわかる、今までとはまったく違う顔だ。
圭介は勢いよく立ち上がると、そのまま店の入口の方に走っていった。
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、窓の外の道を駆け抜けていった彼女を見てすべてを理解した。
理恵子だった。
レストランへの道を一気にまっすぐに走っていく。
圭介もレストランから出て来た。
ふたりは映画のワンシーンのように、そのまま抱き合った。
どうやらふたりは泣いているようだ。
理恵子は涙を拭いながら、何度も頭を下げて謝っている。
圭介は何度もうなずきながら聞いていた。
持っていた伝票をテーブルに置いて椅子に座った。
圭介のことを考えれば喜ぶべきなのに、落胆している自分がいる。
友だちとして理恵子の出した結論を賞賛すべきなのに、素直になれない自分がいる。
あたしは本当に醜い。
圭介と理恵子は、肩を並べてレストランに入っていった。
少し遅れた、仕切り直しのクリスマスイブ。
ふたりはこれから何を語るのだろう?
もはやここにいる理由はなかった。
惨めで醜い人間には、ひとり立ち去るのがふさわしい。
※
翌日、理恵子から電話をもらった。
内容は、
圭介を選んだこと。
空港で吉岡と話してきっぱりけじめをつけたこと。
圭介と吉岡は事前に会っていて、理恵子がどちらを選んでも彼女の幸せのために受け入れようと話をしていたこと。
これでいくつかの疑問が解けた。
理恵子が約束の時間に遅れたのは空港に行っていたから。
圭介が理恵子に電話をかけなかったのは、吉岡と事前に話していたから。
電話の最後で、理恵子はしっかりとこう言った。
「あたし、本当に圭介のこと愛してる。心からそう思う。これから、あたしたち、いっしょに同じ道を歩んでいく」
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