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一歩を踏み出すと、サクッと雪を踏みしめる音が聞こえた。
次の瞬間、堰き止められていたものが一気に溢れて声を出して泣いていた。
あたりかまわず、あたしは泣く。
坂を下りる途中、何人かの人とすれ違った。
でも止めることができない。
父親に手を引かれた小さな女の子が心配そうにあたしを見た。
何とか笑顔を作ろうとしたが、うまく笑えない。
圭介との思い出がつぎつぎと浮かんできた。
バカをやってお腹を抱えて笑ったこと。
バッターボックスに立つ圭介を必死に応援したこと。
手と手が触れてすごくあせったこと。
公園でいっしょにおにぎりを食べたこと。
ケンカして泣いたこと。
夜遅くまで学園祭の準備をしたこと……。
数え上げればきりがない、どれもが素敵な思い出だ。
でも、過去に浸るのはこれが最後だ。もうここには逃げ込まない。
溢れ出る涙が、青春の思い出を洗い流していった。
真っ白な雪が心の中を浄化していく。
坂の終わりが近づいてきた。
あと少しだ。あと少しであたしは生まれ変わる。
よし!
あたしは終点に立ち止まると、グイ! と涙をぬぐい、雪が降り注ぐ空を見上げた。
真っ白な雪が、舞い降りてくる天使のように見えた。
天使たちが、生まれ変わったあたしを祝福しているように思えた。
あたしはこれから未来に生きる。
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