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だがしかし、残念なことに彩の言うことは事実に相違ない。私は勉強が嫌いなのではなく、集団の中に身を置くことが苦手なために学校を嫌っているのだ。集団にうまくなじめないことは友達作りにおいて不利に働く。当然の帰結として私には友達が少ない。
あまりに正鵠を射たばかりに酸素の吸引を妨げられてしまった哀れな彩は、私の手の中でもごもごと文句を言っている。
思いのほかそれがこそばゆくて、私は彼女の口から手を離した。
彩は「酸欠で死ぬかと思った」と開口一番口にして、
「この罪は重いわね。そう、この罪を贖うには夏休みの宿題の読書感想文1本で勘弁してあげてもいいわ」
と右手の人差し指をぴんと立てながら、まじめくさった声でぬかしてきた。ちなみに私が彼女の口を塞いでいたのは、せいぜい5秒程である。
「水彩画なら代わりにやってあげてもいいよ」
体育館前方のステージを確認し、そろそろ講習が始まりそうな雰囲気を察した私は声のトーンを落として言った。
「いや、それ絶対バレるでしょ。斎藤先生は私たちの画力知ってるもん」
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