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この中学校のきまりで、1年生の部活動への所属は絶対となっている。私たちはともに美術部に籍を置いていた。その美術部の顧問の斎藤先生は、1年生全クラスの美術の授業を受け持っている。つまり私たちの夏休みの宿題をチェックするのも斎藤先生なのだ。当然のことながら斎藤先生は私と彩の絵を見たことがある。私が描いた水彩画を彩の名で提出したとすれば、一目でその悪だくみは看破されるであろう。
私たちの画力や作風が似通っていれば、万が一という場合もあったかもしれない。しかしあいにく、私たちの絵は似ても似つかない。私の作風は写実に寄っているのに対し、彩はなんというか、その、型破りで前衛的な絵を描く。
彩の絵に対する周りからの評価はいまいちだ。彩の唯一の欠点として、絵心のなさを挙げる人物も少なからず存在する。だが、私は彼女の絵がとても好きだった。もちろんそれは直接彼女には伝えてはいない。そのささやかな好意は今も胸の内に大事にしまってある。
小太りで化粧の濃いおばさんのあいさつで、薬物乱用防止教室が始まった。講演の内容は、おそらく私には関係のない話だろう。また、薬物に関係のある人がいたとしても、ちょっとおばさんの話を聞いただけで薬物を辞められるかと言ったらそうではないので、結局この講演は誰にとっても無駄なのだ。
事前の情報によると、この講演は1時間にも及ぶらしい。全校生徒約900人の1時間がこれから浪費され行くのは、馬鹿々々しくもあり、むしろ贅沢でロマンがあるとも言えた。
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