3.薬物乱用防止教室(1)

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 ステージに立つおばさんの講釈を適当に聞き流すことは、体育館に足を運ぶ前からすでに私の中の決定事項となっていた。隣に彩がいなかったら、なかなかに地獄だったろう。 「そういえば」  私がぼんやりとステージの方を向いていると、だしぬけに彩が小声で話しかけてきた。 「水彩画の宿題について、斎藤先生が変なこと言ってなかった?」  そこで私は、つい先ほど受けた美術の授業での一幕を思い出した。変なことと言えば、これしかあるまい。 「海は描いちゃダメ」  特徴的なフレーズのみを切り取って呟くと、彩が目を丸くした。 「そう。やっぱり2組でも同じこと言われてたんだ」 「ということは彩の1組でも言われてたんだね。なにかそれについて理由を話したりしてなかった?」  すると彩は少し困ったように眉根をよせた。 「一応、言ってたよ」  いつになく歯切れの悪い返答だ。なにか引っかかることがあるのだろう。私は斎藤先生が「一応」説明したという内容について、彩に話してもらった。 「『なんで海はダメなんですか?』ってクラスの男子が質問したんだ。すると先生は『朝の海は危ないから』って短く答えて、その後あからさまに話題を変えたの」  それを聞いて、私は誰もが思いつくだろう所感をそのまま口にした。 「なんだか怪しいね」     
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