3人が本棚に入れています
本棚に追加
それを支えに、私はただ黙ってそれを耐えた。教室最後方の窓際の席に座って、ずっと窓の外の世界を見ていた。
天気の良い日には、2階の教室の窓から富士山が見えた。眼下には車回しがあったが、車がやってくることはほとんどなかったため、概ね退屈な眺望と言ってよかった。それでも息苦しい教室内を視界に入れることに比べたら、窓の外のそれは美しい景色といっても過言ではなかった。
一度だけ、ピカピカの白い乗用車が校門から車回しを通ってやって来たことを覚えている。その車から降りてきたのは、清潔な格好をした姿勢の正しい大人の女性と、私と同い年くらいの女子児童だった。恐らく母子だろう。助手席から降りてきた彼女は濡れたような黒い髪を肩の下まで伸ばしていて、それが私には非常に眩しく感じられた。
あまりに食い入るように見つめすぎていたのか、2階の教室から注がれた私の視線に気づいた様子の彼女と一瞬だけ目が合った。私はあわてて視線を外し、小さくため息をついた。
次の4月、私は6年生に進級した。
最初のコメントを投稿しよう!