8.彼女の名前について

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8.彼女の名前について

 しめった潮風が私の髪をきしませた。  私は目に入りかけた前髪をかき上げながら、彼女のさらさらとした黒髪を横目で追った。  朝日を浴びた彼女の髪は今日も濡れたように輝いていて、つい視線を奪われてしまう。 「で、シャロはどんなふうに自分の名前の由来について語ったの?」  私はあわてて視線を前に戻す。  もちろん彼女が聞きたがっている「名前の由来」とは、本名ではなくあだ名についての由来だろう。 「説明しなかったよ、私のあだ名については」  私は人前に立って何かを説明するようなことが苦手だ。しゃべっているうちに、自分が何を話しているのか自分でもわからなくなってしまうのだ。そんな私にとって、話せば長いあだ名の由緒について説明することは難しい作業だった。  それでなくとも、ほとんど見ず知らずの人、又は小学生のころ私に対するいじめを見て見ぬふりしていた人に対して、わざわざ自分の大切なものについて説明することには心理的な抵抗があった。 「そうだよね」  その後、私たちはしばらく黙って浜辺を歩いた。絶えぬ波のさざめきと時折鳴くトンビの鋭い声が沈黙を埋めた。     
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