9.二人だけの世界

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 空では薄い雲が太陽から外れ、朝日に照らされた穏やかな海は波の模様に光っている。空から燦燦と降り注ぐ陽光と海面で反射したそれは、浜辺に向かい合って立つ2人を穏やかな黄色で包み込んだ。  より大きな影を持つ方が、懐から小さな深紅のケースを取り出した。不器用そうにその口を開くと、中からは小さな一等星が現れた。朝日を浴びて輝くそれは、ケースの元を飛び立って、桜色の爪をゆっくりと通り抜ける。  そして、2つの影は1つになった。  穏やかな潮風が、控えめな白波が、そしてが情熱的な夏の太陽が2人の特別な瞬間を祝福していた。その光景と色彩を私は生涯忘れることはないだろう。 「やったやった!」  はしゃいだ彩が私に飛びついてきた。 鳥肌が遅れてやってくる。私も幸せな気持ちに包まれて、彩に抱擁を返した。 「うん。よかった」  もう一度美しい光景を目に焼き付けようと浜辺の方に首を回した。 「あ、やば」 「え、なに?」  私は彩の手を掴み、走り出した。 「もしかして、見つかっちゃった!?」 「目が合っちゃった!」 「どじー!」 「彩が大きな声出すからでしょー!」  私と彩は水族館の駐輪場に停めて置いた自転車に同時にまたがる。  嬉しくて、恥ずかしくて、高ぶった感情をそのままに、私は自転車のペダルを全力で踏みしめた。
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