夢見る魔王

名前

　洞窟を出ると、そこは森の中だった。
　穴は、ぼうぼうとのびた草で覆われ、外からはほとんど見えない。
　外へ出ると、いきなり青々とした草の匂いにつつまれる。
　カイルはしばらくその空気を吸い込んだ。

　ちゅちゅちゅちゅちゅ……。

　小鳥だろうか？
　騒がしい鳴き声が、森の中を移動していく。
　目の前を、バッタがぴょんと飛び跳ねた。
　なぜだかカイルの顔に笑顔がこぼれた。
　さあ出かけよう！
　カイルは元気よく、小走りになって森を駈けていく。

　わ！

　爪先が、なにかの根っこらしきものにとられ、カイルは前のめりになって倒れこんだ。
　いてて……。
　慌てていたのか、カイルは爪先をしたたかに打ち付けていた。

「ああ、びっくりしたあ……いきなり倒れるんだもんなあ！」
　甲高い声に、カイルはきょろきょろとあたりを見回す。
「だ、だれ？」
「ぼくです」
　カイルの肩から提げているバッグの口が開き、黄色いかたまりがぴょこりと顔を出した。
　ぷるぷると全身を動かして声を出している。
「ぼく、プルプル！　よろしく、カイルさん」
「よ、よろしく……」
　プルプルはバッグからぷるり、と飛び出し、地面にうずくまった。
　ふたつの目がカイルを見つめている。
　洞窟の、おおきなスライムとは違い、身体の割りに目がおおきい。
「ぼく、カイルと一緒に外へ出たいと思って、黙ってバッグの中に隠れていたんだ。ねえ、ぼくも一緒に連れてっておくれよ」
「一緒にって、どこへ？」
「そーんなの、判んないよう！　カイルさんの行くところ、どこへだってついていくから。ね、迷惑はかけないからさ！」
　もう迷惑かけているじゃないか、という突っ込みはやめとこう。
　カイルはうなずいた。
　いいじゃないか！　ひとりより、ふたりのほうが楽しい。

「いいよ、プルプル……って言うんだね。一緒に旅をしようじゃないか」
「やったあ！」
　嬉しさに、プルプルはじぶんの身体をボールのように丸くしてあちこちを飛び跳ねた。
　ぴょんと飛び上がり、カイルの肩にくっつく。
「じゃ、出発だ！」
　うん、とうなずきカイルはふたたび歩き出した。