名前

5/8
前へ
/185ページ
次へ
 ゆっくりと草で剣の血糊をふき取り、カイルは鞘におさめた。 「びっくりしたねえ……外にはあんな魔物がいるんだ」  ようやく、といった感じでプルプルが話しかけてきた。  ああ、とカイルは言葉もなくうなずいた。なんだか返事をするのも億劫だ。 「旅をつづけよう……」  つぶやき、カイルは立ち上がった。 「でもルーナは大丈夫だったかなあ。やっぱり魔物に出会っているのかな……」  ぎくり、とカイルの歩みがとまる。 「ルーナって、だれだ!」  するどくプルプルに尋ねた。  ぴくん、とプルプルは身を縮めた。  するり! と、プルプルはカイルの肩から離れると、バッグの中へ飛び込んだ。  カイルはバッグを掴み上げ、怒鳴った。 「答えろプルプル! ルーナってだれだ?」  ぶるぶる……バッグが細かく震えている。 「駄目だよう……言っちゃだめって言われているんだ!」  くぐもった声が、バッグから聞こえてくる。  答えろよ! カイルは荒々しくバッグをゆすぶった。  しかしプルプルは答えない。じっとバッグの中で黙ったままだ。 「そうか、答えたくないならしかたがない。それじゃ、お前ともここでお別れだ」  しばし沈黙。 「お別れ?」  ちいさな声が聞こえてきた。 「そうだ。お前をここで放り出して、ぼくは旅を続ける。さっきの魔物は、ぼくの剣でやっつけたけど、お前はどうかな? お前なんか、ぱくりと一飲みで食われちまうだろうな」  ぷるぷる……。  バッグが激しく震えだした。  カイルはバッグを地面につけ、話しかけた。 「じゃ、お別れだな。元気でやれよ。魔物に出会わないよう、祈ってやるよ」 「ま、待ってよお!」  情けない声が聞こえてきた。 「言うな?」  うん……諦めたような声がして、にょろりとプルプルが顔を出した。 「魔物、いない?」  ああ、いないよと答えると、プルプルはするするとカイルの肩によじ登った。 「ルーナっていうのはね……」  プルプルは話しだした。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加