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やがてそれが馬車の灯火であることに気づいた。
馬車の窓からひとりの老人が顔を突き出し、カイルを見おろしている。
老人はひと声叫び、馬車を御している御者に声をかけた。
どうどうどう……。
御者はたくみに馬を御して、馬車をカイルの側で停車させた。
老人はじろじろと無遠慮な視線でカイルの全身を眺めた。御者が気を利かせ、馬車のランプを外してカイルの全身を照らし出した。プルプルはランプの光が照らし出す寸前、あわててカイルの背中にまわり、バッグに逃げ込んでいた。
「ドッグテールを倒したのはきみかね?」
しゃがれた声で、老人は話しかけた。
「ドッグテール……なんですか?」
「犬の首に、蛇の身体を持った魔物だよ。道で、あいつがふたつに身体を切断されて死んでいるのを見つけてびっくりしてね……お前さんが殺さなければ、わしらがあれに襲われているところだった」
カイルはうなずいた。
気がつくと、じぶんの服があのときの返り血でよごれている。
「名前は?」
カイルが答えようと口を開きかけた瞬間、老人は笑顔になって言葉を重ねた。
「ああ、失礼した。まずじぶんから名乗るべきだった。わしはダルリ村の、フラン・オードというものだ。こう見えても村長をつとめておる。今夜はとなり村のツラリ村での会合があって、その帰りというわけだ」
「ぼくはカイルといいます」
「カイル……なにかね? 苗字があるだろう?」
「カイルだけです。それ以外、知りません」
ふむ?
オードは眉をあげた。
「まあいい。とにかく、あの魔物を倒してくれたのだから、あんたはわしの恩人というわけだ。どうかね、歩いていくのは疲れるのじゃないのかな。よかったら、乗っていかんか?」
ドアを半開きにして、オード老人は笑顔を見せた。
「有難うございます」
カイルはためらいもなく馬車に乗り込み、オードの真向かいの席に座った。御者が馬に声をかけ、ぴしりと鞭を空中で鳴らした。
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