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ぶるるる……馬たちが鼻を鳴らし、かつかつと蹄の音を響かせふたたび馬車は動き出す。
やわかな革のシートに座り込んで、はじめてカイルは自分がひどく疲れているのに気づいた。
オードはにこにことほほ笑みかけてくる。
「しかしあのドッグテールを、よく倒したな。よほど剣の腕がいいんじゃろう」
「ああいった魔物はよく出るんですか?」
「前はあんな魔物は存在しなかった。わしの子供のころは、人々は旅をするのも、身を守る必要すら感じなかった。しかし五十年くらい前のことか……いきなりああいった魔物が出現するようになった。ドッグテールのほか、さまざまな魔物があらわれ、人間を襲うようになった。いったいなぜなのか、判らん。それよりよかったらきみのこと……カイルと言ったな。話してもらえんだろうか?」
ええ、とカイルはうなずき、洞窟で目覚めたときのことから話しだした。
ようやくカイルが話を終えると、オードの顔に真剣な表情が浮かんでいた。
「そのルーナという娘だがね、十日前わしの村にやってきたよ」
え、とカイルは弾かれたように上体を浮かせた。
おっと! と、オードはカイルの勢いにのけぞった。
「そ、それでルーナという女の子は?」
「慌てるでない。残念だが、そのルーナという娘は一晩わしらの村宿で休息してすぐ旅立ったよ。街道をたどっていったから、たぶんつぎの宿場町に向かったのじゃないのかな」
そうですか……と、カイルはシートに腰を落ち着かせた。
そんなカイルを、オードは優しく見つめた。
「お前さんの言うことが確かなら、ルーナという女の子とあんたには何か不思議なつながりがあるようじゃな。いったい、どんな理由があるのじゃろう」
わかりません、とカイルは首をふる。
「休みなさい。馬車で行けば明け方までにはダルリ村へはつく。あんたはひどく疲れているようじゃな」
うなずいたカイルは、狭いシートに倒れこんだ。
その瞬間、深々とした眠気が襲ってきた。
ごとごとという、車輪の振動が心地よい。
すやすやとした寝息を立て、カイルは眠り込んでいた。
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