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最初の村
夜明けとともに、ダルリ村が見えてきた。
馬車の窓から、カイルは近づいてくる村をむさぼるように見つめていた。
人間の村。
夜明けの光の中、村の家々からかすみのように炊事の煙りがたなびき、早起きの村人たちがさまざまな活動を始めている。
なんてたくさんの人だろう……。
人々は近づいてくる馬車に気づき、親しげに手を振った。
村長だというオードは、村人たちの尊敬を集めているようである。人々はオードと目が合うと、いちようにお辞儀をし、お早うございますと挨拶をしてくる。オードは窓越しに、いちいちそれに答礼している。
やがて馬車はオードの屋敷に近づいた。
納屋があり、一見して農家の暮らしである。
屋敷に通され、カイルはオードの妻から朝食のもてなしを受けた。
「ルーナさんね……ああ、憶えているわ。赤い髪がとてもきれいな娘さんでしたよ」
カイルの相手をしながらも、手は忙しくテーブルの上を動き、カイルの前にスープやパンを並べその間にも目は台所の火加減を見張っている。
「そう言えばボルトの家の息子が……」
オードの言葉に妻はうなずいた。
「そうそう、ボルトの家のひとり息子が病気でながいこと寝たきりだったんだけど、あのルーナさんが治してあげたのよ」
「治して……?」
「治療した、という意味じゃよ。あの娘さん、ボルトの家の息子が長患いと聞いて、すぐに出かけて行ってその場でなにやら魔法のようなことをしたそうじゃ。そしたら、息子のやつその場で立ち上がって、母親にお腹がすいたと訴えたというぞ。いやはや、たいした魔法使いじゃわい!」
カイルはその治療を受けたという男の子に無性に会いたくなった。
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