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ふたたびさっきの声がして、ぽ……と、かすかなひかりがともった。
蝋燭一本ぶんの灯りなのに、まるで目に針を突き刺されるように痛んだ。
しばらく目をその灯りに慣れさせる必要があった。
ようやく瞳孔がすぼまり、少女はじぶんがあるものを見ていることを知った。
ぐにゃぐにゃとした不定形の生き物。
スライムである。
その表面には無数の繊毛がはえ、ざわざわと勝手な動きを繰り返している。原形質の身体の中心には核があり、小指のおおきさほどのゴルジ体やミトコンドリアがくねくねと透明な原形質のなかで蠢いているのがわかる。巨大な単細胞生物。その体内にふたつの眼球がうかび、ぎょろぎょろとあたりを見回している。
ふつうだと恐怖を感じるべき相手である。
しかし少女はまったく恐怖を感じることはなかった。
ただ相手が味方であることは本能的に判っていた。
どんなことがあっても、このスライムはじぶんを攻撃することはない。逆に、彼女に害する存在には、全力を尽くして戦い、命をかけて守るであろうことはわかっていた。
時間がすぎ、ようやく少女は立ち上がる気力がわいて出てくるのを覚えていた。
ふらつきながらも立ち上がる。
彼女ひとりが全身をひたすほどのプールのまんなかに立っていることを知る。
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