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 滅多に見かけることはなかったそれだった。今まで見かけることはあっても、身近な人間についてるのをみたことはないから、あれがとりつくとどうなるかはよく知らない。けれどもあれほど怖くて嫌なものに絡みつかれて何も起きないと思うほうがどうかしてるだろう。 「昨日、いつの間にか帰っちゃったんですね。二次会行くの楽しみにしてたんだけどな」  幾分低めに声を落とす西沢さんに回覧物を手渡された。  ちゃんと受け取った書類の反対側の端を西沢さんは離さない。  その手の甲に触手を伸ばしてゆらぐいそぎんちゃくのような何かがいた。 「……ちょっとお酒飲みすぎちゃったみたいだったので……すみません」 「平木さん、嫌いなものってあります?」 「きらいなもの……蛇は少し苦手ですね」  西沢さんは一拍おいて吹き出した。やけに楽しそうだ。 「いや、ごめん。食べ物っていうか、生ものが苦手とか辛いのが苦手とか」 「ああ、特にないです」 「甘いもの、すきですよね? チョコとか菓子パンとか。駅向こうにタルトが評判のカフェがあるんですけど、ちょっと店の雰囲気が男一人では行きにくくて」 「はあ」  ……これは。 「えっと、一緒にいってもらえたらなと思」 「あのっ」 「え」 「手とか、肩とか、最近痛かったり変だったりしませんか」 「ええ? いや、どうだろう。肩こりしたりしてるかも、しれないかな? でも特に何もないですよ」  一握りほどのいそぎんちゃく。  場所が悪い。     
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