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 次の日も加藤さんは休みだった。  もしかしたらこのまま異動日を迎えてしまうのかもしれない。後任の人が加藤さんの休みを知らずに引き継ぎに現れてしまったので私が対応した。  その夜、西沢さんと行ったカフェのタルトは美味しかった、と、思う。  なにを話したのかもうろ覚えで、不自然じゃない相槌をうつのに必死だったことしか覚えてない。  西沢さんとの食事がどうのというわけではなくて、病院を出るときに気付いたことが気になってしょうがなかったのだ。  地下の更衣室へ向かう廊下、いつも隅を走り抜ける赤や青の光が全くなかった。  私が見ている風景はいつも人間とそうじゃないものでごった返しているのに、今日の駅前はいつもの何割か分スカスカしていた。人間ばかりのその風景は、何やらゴーストタウンに紛れ込んでしまったかのような不安を感じさせた。  それでも聞かなくてはならないと思ったことだけはちゃんと聞いた。  西沢さんと加藤さんはお付き合いはしていないらしい。 「ええ? 偶然帰り道が一緒になったときに一杯飲んだりしたことはあるけど。そんなんじゃないですよ」  軽く首をかしげて西沢さんはそう言った。     
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