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けれどそういうとき、その景色はまるで薄いベールが私との間に立ちふさがっているかのように、私とは関係のないものだと思えていた。実際、そういったやつらは私という存在を認識していないようだった。
けれどもあいつは違う。
確実に、わたしを、目指して進んでいた。私だけを目指して進み、一つ目のことなど認識もしないまま、飲み込んでいったのだ。一つ目ももがくこともなく、ただ飲み込まれていった。自分が飲み込まれていることなど気が付いてもいないようだった。
部屋に飛び込み鍵をかけカーテンを閉めた。
ついてきただろうか。
部屋まであいつはくるだろうか。
両手で口をふさぎ、息が整うのを待ちながら耳をすませた。異形のものがたてる音など聞こえたこともないのに。
明かりをつけることもできずに、部屋の隅に背中をおしつけしゃがみこんだままでどのくらいいただろう。暗闇に目が慣れてきて、毛むくじゃらがいつもどおりちゃぶ台の上に座り込んでいるのがわかって、やっと力が抜けた。多分近くにはもういない。気配は多分ない。きっと。
夜明けがくるまで、うとうとしては自分の押し殺した悲鳴で飛び起きた。
これまで異形のものは私に見える世界に溶け込んだ一部だった。
存在していて当たり前のもの。
存在しているけれども私にはほとんど関わりのないもの。
私を認識することなどないものたちだった。
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