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 それは他の人間となんら変わりのないもので、私にとって区別する必要すらあまりなかったものだった。  時折は私に意識をむけるものはいる。それでも通り過ぎる程度。人込みですれ違いざまに肩が触れて会釈する、そんな程度のものだった。  その代わりに敵意を向けられることもなかった。  犬にも猫にも小鳥にすら嫌われて威嚇されて、母にも疎まれてきた私にとって、異形は私に敵意を向けないものたちだったのに。  そっと玄関を薄く開け、何もいないのを何度も確認して仕事に向かった。  公園の中を通らずに遠回りした。毛むくじゃらはかばんに腰かけて足をぶらぶらさせている。だいじょうぶ。あいつはいないだいじょうぶ。角を曲がるたび、ドアをあけるたび、自分の周りの気配を探って確認した。病院に着いた頃にはがちがちになった肩が痛くなっていた。  今日も加藤さんはこなかった。  加藤さんが首にまとわりつかせていたあの蛇、小山と同じ模様だったような気がする。大丈夫なんだろうか。休みの連絡はちゃんと来ているはずだから、一つ目と同じように飲み込まれてしまっていたりはしていないと思う。  人間も飲み込んでしまう異形がいるのかどうかわからない。少なくとも見たことはなかった。けれどもあんなふうに異形をのみこむ異形も見たことはなかったのだ。     
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