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軽く会釈して踵をかえそうとする私の袖を掴まれた。
ざわざわと、いそぎんちゃくの触手が伸びていき、西沢さんの首に絡みつきはじめる。私の表情に怯えが浮かんでしまったのか、慌てたように西沢さんは手を離した。
「ごめん。ちょっとつきあってもらえないかなって。聞いてほしい話があって」
「ここでは……だめなんです、ね?」
「できれば」
駐車場に向かう西沢さんの後ろについていく。
いそぎんちゃくは嫌な感じを増していっていた。
たぶんこれはもう、はぎとることはできないと思う。
触手の先はまだらの緑色。濃淡がうごめいている。――この柄を知っている。
私は車の種類が全くわからないけれども、ピカピカの赤い車はとても高級そうだと思った。
その車の助手席のドアを開けて乗るように促されるのを拒んだ。
「……平木さんもきっとそのつもりなんだと思ってたんだけどな」
西沢さんは視線を落としつつ、つま先で砂利をつついている。
「たぶん、違うとおもいます。いえ、好ましく思っていたと思いますけど」
「けど?」
「西沢さんは優しくしてくれました。私にはあまりそういった経験がないので、うれしかったと思います。だけど西沢さん」
西沢さんは私に挨拶を笑顔でかえしてくれた。チョコもくれた。
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