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だからお返しがしたかった。
彼には見えないのだろう。つま先でつつく砂利に落ちる濃い影が。
彼の背中を覆いつくすほどの小山が、宵闇を一段濃くさせている。
私の横の毛むくじゃらは車の下が気になるようでしゃがみこんでいた。
もし私たちと私たちがひきつれているそれぞれを見ることができる人がいたなら、まるで怪獣大決戦のように見えただろうか。それにしては緊張感があまりないかもしれない。
ほんと車に下に何があるというのか。
小山の敵意は、今はもう私に向いていなかった。怖くて嫌なものには変わりないけれど。
光沢のある緑の濃淡、加藤さんにとりついていたやつと同じ柄、そして西沢さんに絡みつくそのいそぎんちゃくは、その触手をゆらりと小山に伸ばして同化していく。
「あなたには、もっと優しくしなくてはいけない人がほかにいたんじゃないのかと思います」
私の視線の先が自分の後ろにあることに気付いた西沢さんが振り向いて、そのまま硬直したのがわかった。
小山は一つ目をのみこんだときと同じように静かに西沢さんの頭からのしかかり、ゆっくりと己の中に彼をとりこんでいった。
半透明な部分に大きな気泡がふたつ、みっつ。浮かんでは表面ではじけていく。
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