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 細かな振動が、その小さな波を空に伸ばした数本の枝の先に伝えていく。  枯れ木のようだった枝に次々と小さな葉がほころび。  大樹の一生を早送りで回したビデオのように。  小山は幾多の葉を蓄え、そして濃淡の緑は黄色味を徐々に帯び。  そのまま枯葉の山となり。  西沢さんが最後に硬直したのは、小山が見えたわけではなかったのがそのときわかった。  崩れ巻き上がる枯葉の中に立ち尽くしていたのは池田さんだった。  私からは小山が邪魔をしてみえなかったのだけど、西沢さんには池田さんが見えたのだろう。  池田さんの肩や背中に枯葉が数枚残ってて、思わずそれを一枚つまみあげて風にのせた。  その時初めて私の姿に気がついたように、初めて挨拶を交わしたときのように、池田さんは私に微笑んだ。 「この車のローンねぇ、私名義なのよ」  さらりと、届け物の書類を受け取ってくれたときの挨拶と同じトーンでそういって。 「……お返しはしなきゃいけないものですよね」 「そうね」 「わたしは、池田さんにもお返しがしたかったです。あなたはわたしにやさしかった」    池田さんはいつもどおりのその微笑みのまま。  最後の水柱を高くあげた噴水がすとんとショーを終えるように、枯葉を巻き上げていた風がやんだ。     
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