プロローグ

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「ジューンブライドは幸せになる」だなんて、誰が言い始めたのだろう。 外は土砂降りの雨だった。 でも今、私が立っているこの場所は天候など関係ない。 都内の高層ホテルの奥にしつらえられた、結婚という儀式を効率よく執り行うためだけにあるチャペルだ。 ダークなウォールナットと白を基調とした室内にはパイプオルガンの音色が厳かに響き渡っている。 聖歌隊による讃美歌が終わると、私は目まいを覚えながら正面の祭壇を見つめた。 もう後戻りできない。 悪い夢だと思っていたものから醒めてみたら、それが現実だと突きつけられているような、そんな気がした。 隣に立つタキシード姿の男も、外の雨に負けないほど陰鬱な表情だ。 挙式前の写真撮影では終始無言で、この不本意な結婚へのやるかたない怒りが全身から滲み出ているようだった。
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