さくらつなぎ ~桜の樹の下で~

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父の実家から出された葬儀は簡素なもので、 粛々と、そして事務的に行われていった。 焼香が終わると、参列者はすぐに途絶えた。 誰もが早々にこの場を切り抜けたいのがわかった。 叔父が、死んだ祖父の妾の子だと知ったのは随分前だった。 そのせいなのか、父も母も父方の実家とは年々疎遠になっていた。 まして、娘の私にとっては、どうでもいい遠い親類の事情に過ぎない。 叔父との思い出も、これと言って記憶になかった。 ただ、初めて紹介された時、綺麗な顔立ちだな、と 子供心に思ったのを覚えている。 遺影の顔は、この家の誰とも似ていない。 端正で美しい輪郭だ。 病気さえなければ、この人はもっと華やかな人生だったのかな・・・。 桜を愛でる叔父の姿が思い浮かぶ。 スマホの画像はまだ消去していなかった。 あの日、自分の眼にだけ焼き付いてしまった、 「聖也」という名の生命の彩りを 誰かに伝えなければ、と思っていたから。 ― あれ?和尚さん、風呂敷包み忘れて行ったなぁ。 ― あら、まぁ。大事なもんだったら困るねぇ。電話しておかないと・・・。 ― まだ寺に戻っていかんだろ。その辺、歩いてるんじゃないか? 余計な手間に苛立つ会話が耳障りだった。     
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