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― あ、私、届けてきます。
風呂敷包みを抱えて外に出た。
息苦しさから解放されたようにふぅっ、とため息が出る。
もはや寺の境内に入る、というところで和尚に追いついた。
― いやいや、これは申し訳なかった。済まんかったのぅ。
包みを受け取り、恐縮する和尚が続ける。
― 今しがた、子連れの女性に仏さんの家を聞かれたが焼香に行きなさったかな?
― 子連れ、ですか?さぁ、気が付きませんでしたが・・・。
― そうか。道に迷ったかなぁ・・・
その女性は、すっとした姿勢で門の前で佇み、玄関口を見つめていた。
2歳位の男の子の手をぎゅっと握っている。
― あのぅ、和尚さんに道を聞かれた方ですか?
― えっ?あ、はい。
不意の声がけに驚いたのか、返事が上ずっている。
― お焼香でしたら、どうぞ中へ。
― え?いえ、でも・・・あの、急いでたので喪服も着てませんし、
お香典も準備してなくて。 ここで手を合わせるだけで・・・。
― せっかくいらっしゃったんですから。お線香だけでも。
もう、あまり人もいませんから。
半ば強引に、私は戸惑うその人を祭壇のある和室に招き入れた。
男の子を膝にのせ、
静かに手を合わせる横顔は透き通る白さだ。
顔を上げ、唇をきゅっと結びながら
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