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さくらつなぎ ~桜の樹の下で~
― ねえ、泣きたくなるなんて花、桜だけだね。
そう言って彼は、むせかえる桜香を見上げた。
本当に涙を流していたのか、と思うくらい
それは長い時間に思えた。
美しい叔父、聖也。
長患いをしているその骨格は広く細く、儚げで、
そして凛としていた。
車椅子から立ち上がった彼を、
今にも花弁が吸い込んでしまいそうで
私は思わずスマホに収めた。
連れて行かれそう・・・。
― 叔父さん、そろそろ戻った方がいいんじゃない?
― ・・・ああ、そうだね。
腰かけた叔父の車椅子を押しながら、来た道を戻り始める。
襟足まで伸びた髪の毛に、桜の花弁が不意にからまる。
― 桜は散り際が一番綺麗だ。散ってこそ桜なんだよ。
確かめるようにつぶやくその声に、相槌を返すような風がそよいだ。
それから10日程たった日、叔父、聖也は旅立った。
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